【専門家インタビュー】新型コロナショックでどうなる?マンション市場の今とこれから

新型コロナウイルスの感染拡大によって、多方面に影響が出ています。2020年に開催予定だった東京オリンピックは延期となり、株価はリーマンショックを超えるスピードで下落しました。不動産市場にも、さまざまな影響が予想されています。「今年こそマンションを買おう」と考えていた方や、売却して住み替えを検討していた方にとっては、その動向が気になるところでしょう。
コロナ禍の真っ只中にある不動産市場の現状から、東京オリンピックの選手村マンション「HARUMI FLAG」の今後を含めた「アフターコロナ」の予想まで、不動産コンサルタントの長嶋修さんに聞きました。

リーマンショック後のような急速な価格下落は起こらない

――不動産市場の現状について教えてください。

新型コロナウイルスの感染が拡大する前まで、都心部の地価は住宅地も商業地も上昇しており、2017年から2018年にはピークに達していた感がありました。上昇率が鈍化して、「そろそろ山場かな」というときに起きたのが新型コロナウイルスの世界的大流行です。欧米諸国の感染者数が急増すると、国内外の株価は一気に下落。日経平均株価も過去最大の下げ幅を記録した後、日銀の金融政策や米国の大規模な経済対策への期待感から、急ピッチで値を戻すなど乱高下しました。

不動産市場にとって決定打になったのは、国内での感染拡大に伴って、2020年3月末に出された不要不急の外出自粛要請、そして4月7日の緊急事態宣言の発令です。新築マンションは、感染拡大への懸念からモデルルームが休業し、契約が進んでいません。株価とほぼ同じように推移する中古マンションへの影響も大きく、外出自粛で人の動きが減ったこともあって、売り買いともに停滞しました。

――リーマンショックのときのように、急速な価格下落が起こりうると思われますか?

リーマンショックのときと大きく違うのは、現在の新築マンションの売り主は「メジャーセブン」と呼ばれる、住友不動産、大京、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスが大部分を占めているということです。こうした大手デベロッパーは、中小の不動産会社に比べて資金力がありますから、リーマンショックのときのような投げ売りによる価格下落は生じにくいでしょう。しばらくは停滞するでしょうが、緊急事態宣言が解除されて人の動きが戻れば、これまで様子見に回っていた方が一気に動き始めると思います。中古マンションについても同様です。

ただ、中古マンションの場合、今後の状況によっては「売れなくなるかもしれない」とパニックになったり、コロナの影響で今すぐキャッシュが必要になったりして、投げ売りされる物件が一部あるかもしれません。

――リモートワークの普及で、「都心・駅近」のマンションの価値が、変化するかどうかも気になるところです。

在宅勤務、リモートワークといった働き方が広まっても、これまでどおり「都心・駅近」のマンションの価値は維持されると思います。多様な働き方が可能になれば、共働き率も上がるでしょうし、副業を解禁する企業も増えていくでしょう。一人の人、ひとつの家族が関わる場所が増えていくので、総合的な利便性を重視する傾向は変わらないと見ています。

――では、タワーマンションの価値はどうですか?

タワーマンションに関しては、二極化が進むと予想しています。湾岸地域や武蔵小杉など、都心に急増したタワーマンションの中には、さまざまな理由で空室が出て、修繕積立金に差が出るようになっています。
また、管理費が集まらなければ、共有部分の清掃が行き届かなくなったり、メンテナンスが滞ったりして、マンションの資産価値が落ちます。結果として、同じ時期に同じような場所に建った同じくらいのグレードのマンションであっても、持続可能なマンションと、そうでないマンションに分かれていくことになるのです。

これから中古マンションを購入する方には、「修繕積立金がきちんと集金されているか」「管理の状況はどうか」といった点に注目することをおすすめします。湾岸エリアの主要マンションについて、1戸あたりの修繕積立金を調べて公開しているツイッターアカウントなどもあるので、参考にしてみるといいと思いますよ。

資産価値の低下は避けられない「HARUMI FLAG」

――東京オリンピックの延期決定で、選手村跡地のマンション「HARUMI FLAG」の行方も気になるところです。

基本的に、社会情勢や自然災害といった不可抗力による分譲延期では売り主の責任は問われず、契約続行となります。マンパワーの不足による工期の遅れなど、明らかに売り主側に非がある場合を除いて、違約金の請求もできません。
すでに、売買契約を結んだ方がその契約を解除したい場合、契約時に支払った手付金を放棄するしかないでしょう。手付金は、一般的に売買金額の5%から10%ほど。分譲価格に幅があるので一概にはいえませんが、「HARUMI FLAG」の場合、400万円から800万円ほどの手付金を支払っていると考えられます。これをすべて放棄するしかないわけですから、なかなか難しい決断ですね。

――単純に引き渡し時期がずれることも、契約者にとっては悩みの種ですね。

現時点では、1年延期となって2021年7月に東京オリンピックが開催されることになっていますから、「HARUMI FLAG」引き渡しと入居も、後ろ倒しされることになります。当初は2020年の東京オリンピック開催後、改修して2022年から2023年に完成を予定していましたが、さらに延期されれば、入居は早くて5年ほど後になってしまいます。

一般的に、マンションの購入を検討するのは、結婚や出産で家族の人数が変わったり、お子さんの進学や独立など生活スタイルが変化したりするタイミングですよね。1年ならまだしも、5年後の暮らしとなると、かなりイメージしづらくなるのではないでしょうか。

加えて、住宅ローンの問題もあります。マイナス金利政策の影響もあって、超低水準で推移している住宅ローンの金利ですが、現在が底でしょうから、今後はほぼ上昇リスクしかありません。住宅ローンは引き渡し時の金利が適用されるので、当初の想定を超える金利で住宅ローンを組まざるをえない事態も十分に考えられます。

――「HARUMI FLAG」の資産価値にはどのような影響がありますか?

基本的に、マンションの価値は魚と同じ「時価」だと考えてください。売れ行きが悪いマンションは、販売期間に比例して鮮度が落ちる、すなわち資産価値が下がります。「HARUMI FLAG」の場合、緊急事態宣言が解除されてからもしばらくは様子見が続くでしょう。「オリンピックのレガシー」という点を差し引いても、資産価値の低下は避けられないと思います。
また、入居が仮に5年後となった場合、内装をフルリノベーションしていても、マンションの築年数としては5年が経過していることになります。この点も、少なからず資産価値に影響を及ぼすことになりますね。

今後のマンション市場は株価の推移によって見極めを

――今後の不動産市場について、展望をお聞かせください。

不動産市場は、新築マンションでも中古マンションでも株価、つまり景気と連動しています。2020年4月現在の株価は2万円前後で推移していますが、新型コロナウイルスの感染拡大前にあたる、2019年末から2020年の初めは2万4,000円台とピークでした。住宅ローン金利の低下や共働き世帯の増加で「買える」方が増えたこと、建築の人件費や資材の高騰などにより、現在のマンションの価格はこのピーク時のまま止まっています。

株価がピーク時に戻ったり、さらに上昇したりすれば、マンションはこのままの価格で販売が続いていくでしょう。しかし、このまま株価が2万円くらいで推移していくとなると、今販売されているマンションの価格は株価に対して高すぎますから、じわじわと下げざるをえなくなります。
今後の不動産市場がどうなるかは、株価の動向を見極めて判断するしかありません。

――新型コロナウイルスの感染拡大前から売買を考えていた方や、今考えている方は、どう行動すべきでしょうか?

一般の方がマンションを売りたい、買いたいという場合は、特に市場の状況を気にする必要はないでしょう。これまでと同じように、売りたいと思ったとき、買いたいと思ったときに行動に移すべきであり、様子を見る必要はありません。
なぜなら、市場に出回る物件の絶対数が減ったとしても、「今売りたい」「今買いたい」という方のニーズがゼロになることはないからです。

――ソーシャルディスタンスが気になって、見学や商談を躊躇する方もいそうですが…。

「人との接触をできるだけ少なくするように」という自粛の呼びかけによってモデルルームの来客率は落ち、緊急事態宣言後はほとんどが休業しています。緊急事態宣言が解除されてからも、感染への懸念が完全に払拭されないうちは、客足はなかなか戻らないかもしれません。

しかし、こうした状況下で、不動産業界は次々と新しい取り組みを始めています。代表的なのが、VR(仮想現実)を駆使した内見です。今は、VRゴーグルをつけて360°間取りを確認する形ですが、今後はAR(拡張現実)の技術を組み合わせて、より現実に近いイメージで部屋を確認できるようになると思います。近い将来、ゴーグルなどの機器さえいらなくなるかもしれません。

もしそうなれば、これまでのようなモデルルームより利便性が高く、幅広いニーズに対応できるとして、VRによる物件案内や展示会がスタンダードになっていくのではないでしょうか。新型コロナウイルス対策として苦肉の策で始めたサービスが、これからの業界を変えていくことになるかもしれません。不動産業界の在り方そのものが変わる契機として、前向きに捉えている企業が多い印象です。

――最後に、これからマンションの購入を検討している方にアドバイスをお願いします。

これからマンションを購入する方が重視すべきなのは、駅からの距離のほか、管理組合と修繕積立金の状況です。先にお話ししたとおり、駅からの距離が近いほど資産価値を維持できる傾向は変わりません。都心・駅近は、引き続き大切なキーワードです。
また、現時点では、管理組合の運営状況や修繕積立金の積立状況はマンションの資産価値に一切影響していませんが、将来的には不動産会社の査定や金融機関の担保評価を左右することになると考えられます。マンションの管理組合の形態や修繕積立金の滞納の有無をしっかり確認するとともに、共用設備の使用状況などを実際にチェックしておくことをおすすめします。

<プロフィール>
長嶋修(さくら事務所代表取締役会長・不動産コンサルタント)

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社、さくら事務所を設立。「第三者性を堅持した不動産コンサルタント」の第一人者として知られ、政策提言、テレビ出演、セミナー、講演など、活躍の場は幅広い。「「空き家」が蝕む日本」(ポプラ社)、「不動産格差」「100年マンション 資産になる住まいの育てかた」(日本経済新聞出版社)ほか、著書多数。最新刊にさくら事務所との共著「災害に強い住宅選び」(日本経済新聞出版社)がある。