老後の暮らしに適しているのは戸建てかマンションか…。終活を迎えるにあたって、マンションに住み替える人が多いといわれていますが、それはなぜなのでしょうか。老後の生活について、どのように考えていくべきなのか。そして、今住んでいる場所から住み替えたほうがいいのかどうか。
マンション終活のメリットについて、一級建築士、ファイナンシャル・プランニング技能士、不動産コンサルタントの猪俣淳さんに聞きました。
【専門家インタビュー】老後はマンションが安心?住み替え場所の選び方
- マンションバリューマガジン編集部
- 株式会社マーキュリー
老後の暮らしはマンションが良い?
――老後の暮らしには、マンションと戸建てどちらが適しているのでしょうか?
安全面や生活の利便性を考えると、マンションのほうが適していると思います。車がないと生活しにくい場所に住んでいる場合、免許を返納した後は、バスなどで移動しなくてはいけません。年齢が上がるほど、病院や買い物などのインフラが整っている場所でないと生活がしにくくなります。
マンションであれば、戸建てよりはインフラが整っている地域に多い傾向があります。また、セキュリティも整っていますし、エレベーターがあれば階段移動の負担もなく、高齢者の生活に適しているといえます。さらに、庭の手入れ、外壁の塗り替えや雨どいの掃除など、個人での維持管理がいらないというのも大きな魅力でしょう。
一方で戸建ての場合、老化が進んで足腰が弱くなると2階に上がるのが負担になりますから、結局、1階しか使っていないというケースをよく耳にします。そこで、屋根や建物の自重を軽くすることによる耐震補強を兼ねて、使わない2階部分を取り壊して「減築」するというケースも増えています。
庭をはじめ、建物まわりの外部スペースを利用できたり、窓の数などの開放性が高かったり、駐車場へのアクセスが楽だったりと、戸建てが有利な部分もたくさんありますが、高齢者の住まいとなるとやはりマンションに分があると思います。
――金銭面的にはどうでしょうか?
マンションの場合、修繕積立金や管理費がかかるとよくいわれますが、戸建てに住んでいる場合でも同じく修繕費はかかります。ライフサイクルコスト(LCC)といって、建設費から水光熱費、修繕維持費、解体費などその建物を維持するために必要なトータルコストの金額は、1棟まるごとのコストを個人で負担することになる戸建て住宅の場合、やはりマンションよりも負担は重くなります。
また、建物が古くなった後の最終的な価値でいうと、土地面積の広い戸建てのほうが有利にも思えますが、そもそもの地価や流動性で考えないと単純に比較はできません。当然、構造的に建物寿命が長いということもマンション優位のほうへ影響します。
老後に家を住み替えるために知っておきたいこと
――住み替えに適した時期はありますか?
まずは、ローンが組めるのかどうかが重要になります。現在は、80歳完済のローンを組む人が多いですが、実際に定年後も支払っていけるのかを、ローンを組む前に考えておかなくてはいけません。定年間近になって住宅ローンを組んでしまったがために、「支払えなくなった、どうにかしたい」という相談はよく寄せられます。
住み替えに適した時期は、結婚や子育てなど、人それぞれで異なります。結婚、子育て中、子育て後、老後と、ライフステージに応じて必要な部屋数や広さは変わります。規模を大きくしたり小さくしたり、その時々に必要な部屋数に応じて計画的に住み替えていくのがいいと思います。
2世帯や3世帯で住めるような家や、部屋数の多いマンションを持て余してしまっている人はたくさんいます。
――賃貸と分譲、どちらがいいのでしょうか?
ライフプランによっても変わりますが、まずはそこに住む年数を考えてみるといいと思います。子育てをする期間だけなのか、老後もずっとそこなのか、あるいはどのエリアで働くかということも検討の要素になるでしょう。
購入する場合は頭金を入れてローンを月々返済しますし、管理費・積立金、固定資産税や修繕費がかかります。賃貸の場合は敷金・礼金を最初に払い、月々家賃を支払っていきます。また数年ごとに更新料も発生します。
同じエリアの同じ間取りの相場で考えたときに、購入するなら価格はいくら、借りるのならば賃料はいくらということは調べればわかると思います。
購入の場合は毎月の負担がある代わりに、売却したときにローンの残債を返した後の現金が入りますが、それは住み終わる時期にどのくらいの価値があるのかによっても変わります。買った人が家賃よりも負担が少なくても大きな値下がりが予想される場所であれば、購入ではなく賃貸のほうがいいということです。
逆に家賃よりも負担が大きいとしても、ローン残債の減少よりも値下がり幅が小さかったり、値上がりしたりといった可能性があるのであれば、購入を選ぶというのが金銭的な物差しで見た判断です。
最近の傾向として、中古マンションを買ってリノベーションする若い方が増えていますが、無理のない予算組みによる負担の軽さ、建物の改善による価値の上昇の可能性といった側面から見て魅力的な選択肢のひとつであると思います。
もうひとつ、忘れてはならないのは「高齢入居者の孤独死」というリスクを嫌う大家さんが多いため、いざ高齢になったときに住み替え先として賃貸を選ぼうと思っても、貸してくれるマンションが少ないという問題があります。とはいえ、そのときにあわてて購入しようとしても高齢者がローンを組むのは難しいですから、現金購入をできるかどうかになります。
老後は施設に入るということであれば問題ありませんが、家賃を払いながら入所費用を別に貯めるというのは、自宅不動産を売却して入所費用にあてるというよりも金銭的には大変かもしれません。
いずれにしても、老後の暮らしを見据えて早めに準備をしておくというのは大切なことです。長い老後をどのように生きていきたいか。収入や支出を含めライフプランをしっかりと考えておくことで、やるべきことが見えてくるはずです。
――住み替え場所を選ぶときの基準はありますか?
住み替え場所を選ぶ際は、「立地」「建物」「金額」のどれを優先するのかで変わります。
金額を優先するとすれば、不便な場所の広い家を選ぶのか、便利な場所の狭い家を選ぶのか。あるいは新しくて狭いのか、広くて古いのかといった判断を迫られるということです。いずれも妥協できなければ、予算を上げるということになります。
個人的には老後であれば、予算は上げずに便利で狭くて古いマンションを選んで内装を全交換するのがいいのでは?と思いますが、これは人それぞれですからなんとも言えません。
――買い替えるとき、現在の自宅はどうすればいいのでしょうか?
買い替えを検討している人から、郊外に買った家のローンがまだ残っているけど、便利な場所に買い替えたいという相談がよく寄せられます。その際は、現在の住まいを売却してローンを一括返済した後の手取り資金を元に、「自分で住むための家」と「老後の生活費を生み出すための物件」の2つを手に入れることを提案しています。
特に、子供が独立した等の理由で広い家が不要になった場合などは、自宅のダウンサイジングで結構な手元資金が残る場合が多いので、実現性が高まります。
区分マンションなのか1棟アパートなのかといった判断はケースによって変わりますが、いずれにしても定期的な収入を得る手立てを打たないまま、老後に突入するのはかなりリスクが高いと思います。
――老後の暮らし方として、年金代わりに「リバースモーゲージ」を利用する人もいるようですが。
リバースモーゲージは、不動産の現在の価値に対して、6~7掛けの金額を融資してくれるという自治体や銀行のローン(モーゲージ)です。
これはまとめた融資を受けて毎月定期的な返済をしていく通常のローンとは逆(リバース)に、毎月定期的に融資金額の一部が借り手に支払われ、不動産の所有者が亡くなった時点でその自宅を強制的に売却して債務を回収するしくみになっています。
リバースモーゲージでお金が振り込まれる期間は、不動産の評価額を債務額が超えてしまわないように決められていますが、問題なのは、この契約期間を超えても元気に生きている場合、毎月の振込はストップした上で家も取り上げられるということになってしまうことです。
もしも、リバースモーゲージの期間しかその家に住まないということであれば、先に売却してしまったほうが6~7掛けにならない分、手残りは多いはずです。
<プロフィール>
株式会社アセットビルド 代表取締役
CCIM-JAPAN 2018年度会長
一級建築士、CCIM(米国認定商業不動産投資顧問)、CPM(米国認定不動産経営管理士)
猪俣淳
1984年より、不動産・建築業界に籍を置き、2000年より自身でも不動産投資を開始。2019年現在、東京23区および横浜市を中心に、居住系・商業系、1棟・区分・戸建てなど、複数物件を運用中。2015年に不動産投資サポート・コンサルティング・売買仲介を行う株式会社アセットビルドを設立。
これまで、大手ハウスメーカー、全国紙・地方紙、不動産・建築・相続・会計税務等、各協会などの依頼を受け全国で講演。BS11のテレビ番組「不動産王」のコメンテーターをはじめ、「日経マネー」「SPA!」「FPジャーナル」など、執筆・出演多数。
著書に「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」(住宅新報社)ほか、多数。
一級建築士や不動産コンサルティング技能登録者、ファイナンシャル・プランニング技能士など、不動産・建築・賃貸管理・投資・金融・保険・相続の各分野で29の資格を保有。
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