大手デベロッパーによる寡占化で高止まりが続く新築マンションに代わり、近年注目が集まっている中古マンション市場。
今回は、中古マンション購入時に見るべきポイントや注意点について、株式会社さくら事務所・不動産コンサルタントの長嶋修さんにお話を伺いました。
【専門家インタビュー】専門家に聞く、中古マンション購入時の注意点
- マンションバリューマガジン編集部
- 株式会社マーキュリー
中古マンション市場の「買い時」、どう見極める?
――新築マンションの高騰に伴って好調が続く中古マンション市場ですが、気になるのは「本当に今が買い時なのか」という点です。買い時は、どのように見極めたらいいのでしょうか。
長嶋:講演などでお話をしていても、皆さんの最大の関心は「今買うべきか、待つべきか」という点にありますね。不動産価格の推移を予測するのは、株価動向を占うのといっしょなんですよ。中央区、港区、千代田区の都心3区に、新宿区、渋谷区、文京区、台東区、豊島区、品川区、目黒区の周辺7区を加えた、都心10区の不動産価格を見ると、日経平均株価とかなり密接にリンクしていることがわかります。
また、不動産価格は、まず皇居を中心として城南地区といわれる千代田区、港区、渋谷区が動き出します。次に、城西地区である世田谷区、練馬区から動き出して都心の価格が変動し、神奈川県、埼玉県、千葉県といった周辺地域に波及していくのが定石です。だいたい半年くらいのスパンで、都心部から地方部へと不動産価格の変化は波及していきます。都心部の不動産の動きに株価動向を加味して、長期的な変動を予測するといいでしょう。直近でいえば、しばらくは株式市場も不動産市場も、低調で推移するだろうというのが業界の見方です。
――なるほど。金利についてはいかがですか。
長嶋:金利は、不動産の総支払額に大きな影響を及ぼしますから、不動産価格水準だけでなく金利水準も忘れずにチェックしましょう。基本的に、現状が金利の底だと思いますから、ローンを組んでの購入が前提なら今が買い時ですね。一方、金利が上がれば不動産価格には下落圧力が働くので、現金での購入を考えている方は、値下がりを待ってから購入するのが理論的にはベストです。
ただし、不動産との出会いは縁ですから、買いたいときに買いたい物件が見つかるとは限りません。タイミングや運も大切に、自分にとっての買い時を見失わないようにしましょう。
「将来の資産価値」を考えて物件を見る
――購入したい中古マンションを実際に見るとき、心掛けることがあれば教えてください。
長嶋:最も大切なのは、自分や自分の家族にとっての価値だけでなく、将来的な売却を視野に入れて客観的に物件の価値を測るということです。単身用のマンションを買うなら単身者の視点、ファミリータイプなら「子供が2人いる共働き夫婦」など、具体的な想像に基づいた視点に立って物件を見てみましょう。
将来にわたって資産価値を維持できれば、ローン残高と資産価値との目減り競争に陥ることもありません。自宅を担保に融資を受け、債務者の死亡後に不動産を売却して債務を回収してもらう「リバースモーゲージ」を利用する場合も想定するといいでしょう。担保割れをしないよう、不動産の評価額を維持することが重要です。
――中古マンションを購入する際、具体的にチェックすべきポイントはありますか。
長嶋:まずは「立地」です。自動車保有率の低下や共働き家庭の増加を受けて、空間や快適性より時間を重視する傾向が高まり、「駅近」「駅直結」など、トータルの利便性に優れた物件の需要が拡大しています。働き方改革が進んで出勤しない人が増えれば、こうした流れが変わるのではないかという見方もありましたが、実際には働き方の多様化に伴って、シェアオフィスなどが増加しています。利便性を重視して、駅周辺の物件を求める動きはしばらく変わらないでしょう。
ただし、コミュニティバスや路面電車など、独自の交通インフラが発達している自治体では、必ずしも鉄道の「駅前・駅近」がベストとは限りません。各自治体の都市計画をチェックし、交通インフラの半径500m以内を目安に、エリアを絞り込むことをおすすめします。
――災害リスクについてはいかがでしょう。
長嶋:1981年6月に改正建築基準法が施行され、現在の新耐震基準が導入されました。したがって、1981年6月以前に建築確認申請が受理されている建物は、旧耐震基準で建てられていることになり、新耐震基準の建物より耐震性において劣る可能性があります。
ただし、耐震基準の新旧だけで、災害リスクを判断するのは危険です。軟弱な地盤に立っている新耐震基準のマンションと、強固な地盤に立っている旧耐震基準の建物を比較した場合、後者のほうが揺れにくい可能性があるからです。地盤のおおよその傾向は、国土地理院のウェブサイトに掲載されている土地条件図からつかめますので、購入したいエリアが決まったら一度確認しておくといいですね。
――病院や公共施設、スーパーなどの位置や数なども気になります。
長嶋:優先順位は立地等より低いですが、見ておいたほうがいいでしょう。併せて、時間帯による周辺環境の変化も確認しておくと安心です。日当たりや周囲の音は想像力を働かせるしかありませんが、昼と夜、できれば平日と休日もそれぞれ足を運んでおくと、だいたいの感覚はつかめると思います。
リスクに備える?問題を先延ばしにする?「修繕積立金」について
――管理費や修繕積立金が安く抑えられている物件と、高めに設定されている物件がありますが、どちらを選ぶのが正解なのでしょう。
長嶋:管理費は、マンションの共用部分、および共用部分にある設備等の日常的な維持・管理に使われています。一方、修繕積立金は、共用部分の定期的な大規模修繕工事に必要な資金を前もって積み立てておくもので、性質は大きく異なります。
中古マンションを購入する際に必ずチェックしていただきたいのは、後者の修繕積立金です。最近は、修繕積立金を低く抑えて、全体の購入費用を安く見せる手法が目立ちますが、これには注意しなくてはなりません。修繕積立金は、マンションに住み続ける上で、いずれ必ず出さなくてはいけない費用だからです。
毎月の修繕積立金が少ないということは、工事の段階で費用が不足する可能性があるということです。足りない分をどう補填するかは住民全員の話し合いで決定しますが、一時金を出し合うか、全体でローンを組むかの、どちらかになることが多いでしょう。話し合いがまとまらない場合は、修繕そのものをあきらめ、建物の安全性が損なわれていくのを見守るしかない事態も考えられます。
――修繕積立金が適正かどうか、見極めるポイントを教えてください。
長嶋:大規模修繕工事は、だいたい15年に1度のタイミングで行われます。例えば、築27年の中古マンションを購入したとすると、約3年後には2度目の大規模修繕がやってくる計算ですね。国土交通省の「マンション修繕積立金に関するガイドライン」によると、専有面積1平方メートルあたり、月額200円前後が目安となっています。30年間の合計額から月額を計算すれば、適正価格を割り出すことができるでしょう。ちなみに、大規模修繕工事が終わったかどうか微妙なタイミングのときは、不動産屋に聞けば確かめられます。
――修繕積立金が安い中古マンションは避けたほうがいいのでしょうか。
長嶋:今、販売されている中古マンションの多くは、修繕積立金を抑えているので、「修繕積立金が安いマンションはダメ」と言ってしまうと買えるマンションが少なくなってしまいます。知っておいていただきたいのは、「月々の修繕積立金が高いから嫌だ」というのは間違いだということ。
修繕積立金は、いずれ必ず必要になってくるわけですから、最初の段階で安いのは問題を先延ばしにしているに過ぎません。修繕積立金の役割を理解し、安いときは修繕工事の際に一時的な出費があるという前提で購入することが大切です。
ホームインスペクターを活用して、失敗のない中古マンション選びを
――内覧時にはどういった点に注目すべきですか。
長嶋:中古マンションの内覧会は、前のオーナーが居住している状態で行われることがほとんどですから、細かいところまではなかなか確認できません。だいたいの雰囲気を把握できたら良しとしましょう。
内覧の時点で細部までチェックしたい場合は、リノベーションの有無や今後修繕すべき箇所、またその時期とおおよその費用などを踏まえて、住宅の価値を客観的に診断してくれるホームインスペクター(住宅診断士)にお任せするといいと思います。内覧への同行費用は、2時間で50,000円ほどです。
――最後に、これから中古マンション購入を考えている方にアドバイスをお願いします。
長嶋:気に入った物件が見つかると、「すぐに購入しなければ誰かに買われてしまう」と焦りを感じるのが人間の心理です。一度、冷静になって客観的に物件を見直すこと、相場を見てから購入することを忘れないようにしましょう。
また、リノベーション済みのマンションは、見栄え以外に電気系統や給排水管といった、目に見えない部分の現状を確認することが重要です。特に、築30年を超える物件は設備の不具合が起きやすくなるので、購入後の修復費を視野に入れて検討するようにしましょう。前述した修繕積立金と併せて、建物の持続可能性をしっかり見極めてから購入していただきたいですね。
注意点をチェックして、満足できる中古マンション選びを!
新築マンションより購入費用が抑えられ、かつ立地面でも勝る物件が多い中古マンション。リノベーションで手を加えれば、新築以上に自分好みの住まいを作ることもできます。
買い時や将来の資産価値、建物の持続可能性を占う修繕積立金といった注意点をしっかりチェックして、後悔のない中古マンション選びをしてください。
<プロフィール>
さくら事務所代表取締役会長
不動産コンサルタント 長嶋修
1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社、さくら事務所を設立。「第三者性を堅持した不動産コンサルタント」の第一人者として広く知られるようになる。政策提言、テレビ出演、セミナー、講演など、活躍の場は幅広い。「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)、『不動産格差』(日本経済新聞出版社)他、著書多数。新著に『100年マンション 資産になる住まいの育てかた』(日本経済新聞出版社)。
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