マンションを所有して、賃貸物件として貸し出しを行うマンション経営。マンション経営をするためには、そのメリットやデメリットなどきちんと理解した上で、正しい知識を身に付けておくことが大切です。
経営に失敗しないために知っておきたい知識やリスクなどについて、不動産鑑定士・不動産投資コンサルタントの浅井佐知子さんに話を伺いました。
【専門家インタビュー】マンション経営に失敗しないために知っておくべきこと
- マンションバリューマガジン編集部
- 株式会社マーキュリー
マンション経営の基礎知識
――マンション経営の基礎知識として、マンション経営のしくみを教えてください。
まず、マンション経営はマンションを購入して賃貸物件として貸し出すことから始まります。もちろん、マンション1棟を購入して経営を行う「1棟経営」も可能ですが、個人で行う場合は、部屋ごとに貸し出しを行う「区分マンション経営」が多いです。
また、マンション経営は家賃収入で収益を得るというイメージがあると思いますが、マンション経営で得られる利益には、家賃収入として継続的に利益を得る「インカムゲイン」と、所有するマンションを売却したときに得る売却益の「キャピタルゲイン」の2種類があります。
――マンションを購入するためにはどんな方法がありますか?
融資を受けずに「全額、現金での支払い」のほか、「一部を融資」「全額融資」など、状況に応じた購入方法が選択可能です。ローンを組みたくない人や現金を持っている人は、現金で購入されることが多いですね。融資を受けられるかどうかは、購入する人の年齢や勤め先の会社が上場しているかなど、その人によっても変わります。
低所得者や自営業者の場合は、銀行からの融資は受けにくい傾向がありますが、マンションの販売業者がコーディネートしてくれることもあります。
――マンション経営では、月々の利益はどのくらい得られるのでしょうか?
得られる利益は、購入する物件によって大きく変わります。ですから、物件によっては大きく利益を出すこともできます。
まずは、どうして自分は不動産投資をするのか、いつまでにいくらくらいの家賃収入が欲しいのかを明確にしておくことが大切です。例えば、月10万円程度の家賃収入で十分なのか、または、会社を辞めるために今の給料と同じくらいの収入が欲しいのか、月100万円以上の利益を出したいのか。求める利益によって、購入しなければいけない物件の条件は変わりますし、その物件が実際に購入できるのかどうかを考えなくてはいけません。
理想と現実を知るためにも、利益計算のシミュレーションをすることが大切です。シミュレーションについては、後程詳しくご説明しましょう。
マンション経営には勉強が不可欠
――マンション経営を始めたいと思ったら、何から始めればいいでしょうか
まずは、情報収集と勉強です。不動産投資で検索した本のランキングを1位から100位まですべて読んだり、不動産業者のセミナーに出席したりして、自分の中の情報を増やすことが大切です。
私も不動産投資スクールを行っていますが、有料のセミナーやスクールに参加するのもいいでしょう。
ここで、気を付けなくてはいけないのは、不動産業者の無料セミナーを受けるときです。不動産業者の無料セミナーは、自社の物件を購入してもらうために開催されることも多いので、無料で行うには理由があることを理解した上で参加することが大切です。
利益の出ない不動産を買ってあとで後悔しないように、即決せずにしっかりと情報を自分で理解できる知識を持っておきましょう。
不動産投資は、メリットだけでなく、デメリットもきちんと把握しておくことが大切です。リスクに対する対処法を勉強しておけば、大きな失敗を防ぐことができるはずです。
マンション経営のメリットとデメリット
――ほかの投資と比較して、マンション経営のメリットは何ですか?
一番のメリットとしては、家賃として副収入が得られることですね。また、株やFXなどと比べると、不動産という目に見える物への投資なので、一般人でも理解しやすく、その分、成功しやすいといえるでしょう。一方、デメリットは、ほかの投資に比べて税金が高いことでしょうか。
――定年後の年金代わりになるということも聞きますが、本当ですか?
例えば、40代の人が30年のローンを組んだら、完済は70歳です。これでは、年金代わりに受け取りたいと思って始めても、定年後もローンを返済しなくてはならないことになってしまいます。年金として家賃収入を受け取るのであれば、ローンを定年前に返済できるように設定するか、若いうちから投資を始めなければいけません。
また、生命保険代わりになるというのは、本当です。高度な障害がある状態や死亡した場合にローンの返済の義務が不要になるという「団信(団体信用生命保険)」に加入しなければなりませんから、この保険によって何かあった際にも資産として残すことができるでしょう。
マンション経営とアパート経営
――不動産投資の対象となる物件はさまざまありますが、例えば、マンションとアパートでは何が違うのでしょうか?
区分マンションでは、管理費や修繕積立費などがマンションごとにあらかじめ決まっていますので節約しにくいですが、アパート経営の場合は、ほとんどの場合、1棟丸々購入しますので、経費の自由度が高くなります。共用部の掃除などを自分で行うことで、管理費の削減につながります。
ほかには、融資の受けやすさも異なります。アパート経営に比べて、新築もしくは築浅の区分マンションのほうが融資を受けやすい傾向があります。新築であればアパートでも融資を受けられますが、築年数が経ったアパートでは、さらに借りにくくなるでしょう。
また、融資を受けるときには、物件の耐用年数が目安となりますが、例えば耐用年数が22年と短い木造アパートの場合、必然的に返済期間が短くなることで月々の返済額は増えてしまいます。
マンション経営に失敗しないためにはシミュレーションが重要
――マンション経営をする際、シミュレーションが大切とありましたが、実際どのように行うのでしょうか。
まず、融資を受けずに全額、現金で購入した場合と、一部融資を受けた場合とでシミュレーションの計算方法が異なります。
例として、370万円でマンションを購入したときに、現金で購入した場合と一部融資を受けた場合のシミュレーションをしてみましょう。
<融資を受けずに全額、現金で購入した場合>
【ステップ1】表面利益を計算する
・年間家賃収入:40,000円×12ヵ月=48万円
・表面利回り:48万円÷370万円=約12.97%
【ステップ2】年間に出ていく費用を計算する
・管理費:3,500円×12ヵ月=42,000円
・修繕積立金:4,000円×12ヵ月=48,000円
・固定資産税・都市計画税:20,000円(推定)
・管理会社手数料:24,000円(年間賃料の5%)
・保険料:10,000円
・空室率:24,000円(年間賃料の5%)
⇒ 計16万8,000円
【ステップ3】実際の手取り収入を計算する
・手取り収入:48万円-16万8,000円=31万2,000円(月額26,000円)
【ステップ4】実質利回りを計算する
・実質利回り=31万2,000円÷370万円=約8.43%
370万円を、全額融資を受けずに現金で購入した場合、実質利回りは約8.43%になります。次に、一部融資を受けた場合を見てみましょう。
自己資金を100万円用意して、残り270万円を金利2.5%、返済期間15年で融資を受けたと仮定して計算してみます。
<一部融資を受けた場合>
【ステップ1】表面利益を計算する
・年間家賃収入:40,000円×12ヵ月=48万円
・表面利回り:48万円÷370万円=約12.97%
【ステップ2】年間に出ていく費用を計算する
・管理費:3,500円×12ヵ月=42,000円
・修繕積立金:4,000円×12ヵ月=48,000円
・固定資産税・都市計画税:20,000円(推定)
・管理会社手数料:24,000円(年間賃料の5%)
・保険料10,000円
・空室率:24,000円(年間賃料の5%)
・ローンの支払い:年間21万8,069円
⇒ 計38万6,069円
【ステップ3】実際の手取り収入を計算する
手取り収入:48万円-38万6,069円=93,931円(月額約7,828円)
【ステップ4】自己資金利回り(収入を自分が実際に出した金額で割った利回り)を計算する
自己資金利回り=93,931円÷100万円≒9.39%
ローンの返済をしなければいけない分、月々の手取りは減りますが、自己資金の利回りは9.39%となります。
マンション経営に失敗しないためには、出口を見据えた資金計画を立てること。そして、無理な融資は受けないことが何よりです。
失敗している人の多くは、オーバーローンになっています。自己資金に見合っていない融資を受けて、返済が滞ってしまっては、マンション経営が困難になってしまいます。それだけ、資金計画は重要なのです。
――このシミュレーションは借り手があってのことですが、もし、借り手が見つからなかったらどうなりますか?
借り手が見つからないときは、管理会社に任せっきりにせずに、不動産会社にみずから決まらない原因を聞きに行ったり、挨拶をしに行ったりすることが大切です。所有者が動かないと、借り手は見つかりにくいと思っておくといいかもしれません。
例えば、モデルルームのように家具を配置して、賃貸マンション情報に載せてもらうのもいいでしょう。以前、千葉県の物件で、10部屋中3部屋しか埋まっていなかった物件に、家具を設置したり、ドアを開けたら別世界が広がるようなリフォームを施したりしたことがあります。家具の設置はレンタルサービスを使えば、1ヵ月で2万~3万円の費用で済みますし、リフォームは知り合いをたどって大工さんに頼めば安く済ませることもできるのです。
そうして、リフォーム後に撮影した写真を管理会社の物件情報へアップしてもらい、再度募集したところ、その物件はすぐに満室になりました。
――借り手さえいれば、マンション経営のリスクはないということですね?
基本的に、シミュレーションをしておけば、リスクは回避できます。ただ、すでにマンション経営を始めていて、状況がきびしい場合には、銀行に返済スケジュールを変更してもらいましょう。つまり、金利を下げてもらうように交渉するのです。
また、大規模修繕に追加費用がかかるなどの事態が発生し、返済がきびしくなることが予想できるのであれば、銀行に収支表を見せて、事前に金利交渉をすることが大切です。
それでもだめなら、最悪は破産手続きをすることになってしまうケースもあります。そうならないためにも、マンション経営をする際には、しっかり勉強をして、シミュレーションを立てることが重要です。マンションを買った後は、満室稼働を目指して、手間暇かけて物件を借りてもらう努力をすることが必要となります。
<プロフィール>
浅井佐知子不動産鑑定事務所
代表 不動産鑑定士 浅井佐知子
紅弥不動産株式会社、三井ホームエステート株式会社で10年間、おもに法人営業(土地の有効活用)を担当。その後、不動産鑑定士となり、2001年に浅井佐知子不動産鑑定事務所を開業。
これまで、国土交通省の地価公示評価員、国税庁の相続税路線価、固定資産税評価員などの公的な仕事のほかに、税理士、弁護士等の依頼により、12年間で1,000件以上の鑑定評価書を書き、税務署、裁判等から顧客を守り続けてきた。また、アパートの賃貸から、土地の有効利用、店舗、事務所の賃貸、不動産売買、不動産鑑定、不動産投資コンサルと鑑定を合わせて、計5,000件以上の案件をこなしている。
著書に「世界一やさしい 不動産投資の教科書 1年生」(ソーテック社)がある。
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