マンションの購入や買い替えを検討する際に気になる、マンションの老朽化や寿命。いったい、マンションにはどのくらい住むことができるのか。そして、マンションはどのようにして老朽化が進むのか。これは、中古マンションを買う人なら、特に気になるところではないでしょうか。
そこで、マンションの寿命の見極め方や寿命の長いマンションの選び方、マンションの老朽化は止められるのかなどについて、不動産コンサルタントの猪俣淳さんに聞きました。
【専門家インタビュー】マンションの老朽化は止められる?寿命の長いマンションの選び方
- マンションバリューマガジン編集部
- 株式会社マーキュリー
マンションの老朽化と寿命について
――マンションは、老朽化が進んでいけば、いつかは寿命を迎える日は来るのでしょうか?
老朽化が進めば寿命は訪れますが、老朽化の進行を抑え、寿命を延ばすこともできます。
そもそも、マンションの寿命を考えるとき、国税庁が定めた法定耐用年数を基に考えられることが多くあります。しかし、法定耐用年数は、課税の基準として定められた年数であり、マンションの寿命とイコールではありません。そもそも、1998年に行われた法改正によって法定耐用年数は変わっていますし、居住用と賃貸用では同じ構造でも法定耐用年数には1.5倍の格差があります。
また、マンションの寿命には、「物理的寿命」と「経済的寿命」があります。
1979年に行われた建物の減耗度調査によると、鉄筋コンクリート造の物理的寿命は117年とされています。さらに、1951年にはコンクリートの中性化が終わる年数から算出した物理的効用寿命は大規模修繕などで外装仕上げをした場合150年という大蔵省主税局の報告もあります。
もちろん、築後50年程度で老朽化による亀裂を放置した結果、コンクリートの強度が下がり、建物の一部が崩落するマンションもあるわけで、結局は維持管理の影響が大きいということがいえます。
――鉄筋コンクリート造はどうして寿命が長いのでしょうか。
寿命の長さは、鉄筋コンクリート造の構造がポイントです。
鉄筋コンクリート造は、引張力に強い鉄筋と、圧縮力に強いコンクリートを組み合わせることで大きく安定した強度を実現した構造です。さらに、コンクリートの強アルカリ性が鉄筋の酸化(錆)を防ぐという効果もあります。
しかし、酸性雨によってコンクリートの強アルカリ性が中性化され鉄筋が酸化し、膨張し、コンクリートが剥落するという流れで、鉄筋コンクリートの寿命を著しく短くしてしまうことがあります。
そのため、適切な管理が行われている建物ではタイル仕上げや塗装仕上げで水の浸透を防ぎ、その効果を失わないように定期的な大規模改修で維持管理に努め、コンクリートの寿命を延ばしています。
――経済的寿命とはどういう意味ですか?
築年数が経過すればするほど、建築時の状態やその時に求められる性能に近づけるためのコストや手間がかかります。そのため、維持費や修繕費をかけるよりも、建て替えたほうがより利益が出る場合には、経済的寿命とみなして建て替えることがあります。築年数の浅いマンションが建て替えられる場合のほとんどが、物理的寿命ではなく経済的寿命によって建て替えられています。
1958年に建てられた渋谷区鶯谷町の「うぐいす住宅」や、1953年築の渋谷区渋谷の「宮益坂ビルディング」などは、まさに立地条件が良く、建て替え後の価値が高くなることを見越して建て替えられた建物の代表例だと思います。39平方メートル、148戸のうぐいす住宅は、2011年に46~165平方メートル、244戸の「センチュリーフォレスト」という新築マンションに生まれ変わりました。建て替え前の1998年の取引きでは2,350万円で売却されていましたが、建て替え後の2015年には、82.27平方メートルで1億3,980万円になっています。
マンションの建て替えには、通常、耐震診断を行い、区分所有する住民の5分の1の賛成が必要となりますが、建て替えによる住民の利益が大きければ大きいほど、実現する可能性が高くなります。実際にうぐいす住宅の建て替えが検討されているときに所有者から相談を受けたことがありますが、建て替え後の新築の3LDKの部屋、もしくは現金1億円という条件を提示されたそうです。所有者としても好条件ですが、これだけの費用をかけても建て替え後の価値が高くなるということでもあります。
――マンションの寿命は昔に比べて延びているのでしょうか?
1999年に「住宅の品質確保の促進等に関する法律」ができ、新築住宅の基礎や土台、柱、屋根など、住宅の基本構造部分に問題が生じた場合の瑕疵担保期間が、2年から10年に延長されました。それにより、コスト負担が大きくなる改修リスクを嫌った建築会社が基本構造部分をより重視するようになった結果、寿命は法施行以前と以後では変わった(延びた)といえるでしょう。
それから、1997年の水道法改正により亜鉛メッキ鋼管が使われることがなくなり、耐久性の高い鋼管が主流になったことから配管の寿命も長くなったといえます。
――耐震基準の新旧は影響しているのでしょうか。
新旧、どちらの耐震基準で建てられたかよりも、壁の量・配置バランスや、上下階・屋根の重量バランスの良し悪しなど構造的な部分と定期的なメンテナンスがされていて、建物性能の劣化がないかどうかといったほうが重要です。それらは過去の震災における調査でも明らかになっています。
寿命が延びているマンションの見分け方
――老朽化の進行を抑え、寿命が延びているマンションの見分け方を教えてください。
マンションの寿命を延ばすのは、マンション自体の構造とは別に、維持管理の良し悪しが重要となります。従って、まずは管理会社や管理組合が十分に機能しているかどうかが大きなポイントになります。マンションの老朽化を抑えるためには、大規模修繕が必要不可欠のため、長期的な修繕計画が立てられているかどうか、管理費や修繕積立金の金額に妥当かどうかも重要です。
そのほかにも、建物の構造駆体と住戸内の設備・内装が分離している「スケルトン・インフィル構造」や、建物内外の物理的なメンテナンスのしやすさなども寿命の長さに関わります。内見の際には、そういった部分もチェックしておくといいでしょう。
――寿命が来たことがわかるシグナルはありますか?
コンクリートは、酸性雨の影響を受けて劣化することが多いので、まずはマンションの屋上から劣化が進みます。そのため、住んでいるマンションの外壁などの劣化が感じられる場合には、かなり寿命が近づいているといえます。
もしも、コンクリートからさびた鉄骨が見えている場合は、かなり末期的な状態です。また、塗装面に触ると白い粉が付いたり(チョーキング)、タイル目地から白い筋が出ているのが見えたり(白華)といった予兆があったときには、本格的な調査をすることをおすすめします。
――住民の手により、マンションの寿命を延ばすことは可能ですか?
管理費や修繕積立金をしっかり払っておくことは寿命を延ばすことにつながるかもしれませんね。また、実際に大規模や中小規模の修繕計画が立てられているか、定期的に実施されているかもチェックしておいたほうがいいでしょう。優れた管理会社に維持管理を依頼するというのも重要なポイントです。
――老朽化が進み、寿命が来たらどうすれば良いのでしょうか?
寿命が来ても住み続ける場合、維持管理コストが大きくなることが想定されます。それだけのコストをかけても維持するだけの価値があるかどうか、住民(所有者)の皆さんがそれを負担できるか、あるいは負担する合意を形成することができるかどうかが検討ポイントとなります。
また、売却か買い替えを検討する場合には、その物件を購入する人が実際にいるかどうか、つまり市場性があるかどうかがカギとなります。更地にして売却という選択肢ももちろんありますが、解体費用や造成、道路や給排水といった開発コストをふまえて土地代は決まりますので、当然立地や市場性によって売却できる金額は大きく変わります。
いずれにしてもマンションは、戸建てに比べて合意形成が大きな壁になりますので、老朽化の進捗や対処の可能性を検討しながら、次に打つ手を考えることをおすすめします。
<プロフィール>
株式会社アセットビルド 代表取締役
CCIM-JAPAN 2018年度会長
一級建築士、CCIM(米国認定商業不動産投資顧問)、CPM(米国認定不動産経営管理士)
猪俣淳
1984年より、不動産・建築業界に籍を置き、2000年より自身でも不動産投資を開始。2019年現在、東京23区および横浜市を中心に、居住系・商業系、1棟・区分・戸建てなど、複数物件を運用中。2015年に不動産投資サポート・コンサルティング・売買仲介を行う株式会社アセットビルドを設立。
これまで、大手ハウスメーカー、全国紙・地方紙、不動産・建築・相続・会計税務等、各協会などの依頼を受け全国で講演。BS11のテレビ番組「不動産王」のコメンテーターをはじめ、「日経マネー」「SPA!」「FPジャーナル」など、執筆・出演多数。
著書に「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」(住宅新報社)ほか、多数。
一級建築士や不動産コンサルティング技能登録者、ファイナンシャル・プランニング技能士など、不動産・建築・賃貸管理・投資・金融・保険・相続の各分野で29の資格を保有。
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